2012年05月21日

第卅五卷 若菜下 卅二(夜一夜遊び明かしたまふ二十日の月はるかに)

 夜yo一夜hito-yo 遊び明かしたまふ 

二十日hatu-kaの月 はるかに澄みて 海の面omo-te おもしろく見えわたるに

 霜の いとこちたく置きて 松原も 色まがひて よろづのこと そぞろ寒く おもしろさも あはれさも 立ち添ひたり

 對の上 常の 垣根のうちながら 時々につけてこそ 興kyouある朝夕asa-yuhuの遊びに 耳古りmimi-huri 目馴れたまひけれ 

 御門mi-kadoより外toの物見mono-miをさしたまはず まして かく 都のほかのありきは まだ慣らひたまはねば 珍しく をかしく 思さる

 住の江の 松に夜深く 置く霜は 神の掛けたる 木綿鬘yuhu-kaduraかも

 篁の朝臣takamura-no-as-omの 比良hiraの山さへ と言ひける雪の朝asi-taを思しやれば 祭の心 うけたまふしるしにやと いよいよ頼もしくなむ

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 夜一夜 〔歌舞に〕遊び明かしたまふ 二十日の月 はるかに澄みて 海の面 おもしろく見えわたるに

 霜の いとこちたく置きて 〔霜の降りた〕松原も 色まがひて(白一色に染まり) よろづのこと そぞろ寒く おもしろさも あはれさも 立ち添ひたり

 對の上(紫) 常の 垣根のうち(邸内)ながら 時々につけてこそ 興ある朝夕の遊びに 耳古り 目馴れたまひけれ 

 御門より外の物見 をさをさしたまはず まして かく 都のほかのありきは まだ慣らひたまはねば 珍しく をかしく 思さる

 住の江の 松に夜深く 置く霜は 神の掛けたる 木綿鬘かも

 篁の朝臣(小野篁)の 比良の山さへ〔ひもろぎの 神の心に うけつらし 比良の高嶺に 木綿鬘せり〕 と言ひける雪の朝を思しやれば 祭の心(住吉参詣の奉仕の心情)〔を神が〕うけたまふしるしにやと いよいよ頼もしくなむ

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 一晩中 歌舞に遊び明かされた

 二十日の月が遥かに澄み 海が見通せる 濱は霜がたっぷりと置き 松原まで眞っ白になってゐる

 すべてが凍てつき おもしろさも あはれさも 一入見に沁みる

 紫の對の上は 常は垣のうちで 四季折々の興ある朝夕の遊びには見慣れ聞きなれしたまふものの

 御門の外の物見は爲さったことがなく まして このやうな田舎の御旅は初めてだったから すべてがもの珍しく おもしろく思はれた

 住の江の 松に夜深く 置く霜は 神の掛けたる 木綿鬘かも

 篁の朝臣の 比良の山さへ と歌った雪の朝を思ひ出されると 住吉参詣に神がお應へ下さったのではないか と いよいよ頼もしくお思ひになった



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2012年05月20日

第卅五卷 若菜下 卅一(世を背きたまひし人も戀しく)

 世を背きso-mukiたまひし人も戀しく さまざまにもの悲しきを かつは ゆゆしと 言忌しkoto-imi-siて

 住の江を いけるかひある 渚nagisaとは 年經る尼も 今日や知るらむ

 遲くは便binなからむと ただうち思ひけるままなりけり

 昔こそ まづ忘られね 住吉sumi-yosiの 神のしるしを 見るにつけても

 と 獨り ごちけり

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〔尼君は〕世を背きたまひし人(明石入道)も戀しく さまざまにもの悲しきを かつは ゆゆし(口にしては縁起が惡い)と 言忌して

 住の江を いけるかひある 渚とは 年經る尼も 今日や知るらむ

〔今日の住の江の濱を見れば 長年住み慣れた尼(海女)も 生きてゐた甲斐があったと 今日は思ひ知ったことでせう〕

〔返歌が〕遲くは便なからむと ただうち思ひけるまま〔の歌〕なりけり

〔尼は また〕

 昔こそ まづ忘られね 住吉の 神のしるしを 見るにつけても

〔今日のこの幸せを見るにつけても 昔の思ひ出が愛しくて 忘れることが出來ない〕

 と 獨り ごちけり

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 尼君は 出家してしまった入道も戀しく さまざまにもの悲しいが それを口にしては縁起が惡いと

 住の江を いけるかひある 渚とは 年經る尼も 今日や知るらむ

 返歌が遲れては申し譯がないと 急ぐばかりの歌だったが

 昔こそ まづ忘られね 住吉の 神のしるしを 見るにつけても

 と 獨り言を吐いた



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2012年05月19日

第卅五卷 若菜下 卅(入りたまひて二の車に忍びて)

 入りたまひて 二の車ni-no-kurumaに 忍びて

 誰れtareかまた 心を知りて 住吉の 神世kami-yoを經たる 松にこと問ふ

 御畳紙ohom-tatau-gamiに書きたまへり

 尼君 うちしほたる かかる世を見るにつけても かの浦にて 今はと別れたまひしほど 女御の君のおはせしありさまなど 思ひ出づるも いとかたじけなかりける身の宿世shuku-seのほどを思ふ

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〔源は 車に〕入りたまひて 二の車〔次の車 明石の君や尼君がゐる〕に 忍びて

 誰れかまた 心を知りて 住吉の 神世を經たる 松にこと問ふ

〔私達以外に 誰がわけを知って 住吉の 古々しい松に 語りかけるのでせうか〕

 御畳紙(懷紙)に書きたまへり

 尼君 うちしほたる かかる世を見るにつけても かの浦にて 今はと別れたまひしほど 女御の君の〔明石君の腹に〕おはせしありさまなど 思ひ出づるも いとかたじけなかりける身の宿世のほどを思ふ

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 源氏の院は車にお戻りになり 二の車の明石君達に 忍んで

 誰れかまた 心を知りて 住吉の 神世を經たる 松にこと問ふ

 と 御畳紙に書いたのを送られた

 讀んだ尼君 涙そほそほに かかる世を見るにつけても かの浦にて 今はと別れたまひし頃 女御の君が明石君の御腹におはし あれこれと將來を案じた頃を思ひ出され この恐ろしいほどの幸せを 改めて嚙み締めた




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