2009年07月05日

第九卷 葵 四十二(のたまひし餠忍びていたう夜更かして)

   第九卷 葵 四十二(のたまひし餠忍びていたう夜更かして)

 のたまひし餠 忍びて いたう夜更かして持て參れり

 少納言はおとなしくて 恥づかしくや思さむ と 思ひやり深く心しらひて 娘の辨といふを呼び出でて

 これ 忍びて參らせたまへ とて

 香壷(かうご)の筥(はこ)を一つ さし入れたり

 たしかに 御枕上に參らすべき祝ひの物にはべる あな かしこ あだにな

 と言へば

 あやし と思へど

 あだなることは まだならはぬものを

 とて 取れば

 まことに 今はさる文字 忌ませたまへよ よも混じりはべらじ

 と言ふ 若き人にて けしきもえ深く思ひ寄らねば 持て參りて 御枕上(おほむまくらがみ)の御几帳よりさし入れたるを 君ぞ 例の聞こえ知らせたまふらむかし

 人はえ知らぬに 翌朝 この筥をまかでさせたまへるにぞ 親しき限りの人びと 思ひ合はすることどもありける

 御皿(おほむさら)どもなど いつのまにかし出でけむ 花足(けそく
) いときよらにして 餠のさまも ことさらび いとをかしう調(ととの)へたり

 少納言は いと かうしもや とこそ思ひきこえさせつれ あはれにかたじけなく 思しいたらぬことなき御心ばへを まづうち泣かれぬ

 さても うちうちにのたまはせよな かの人も いかに思ひつらむ
 と ささめきあへり

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 御下命の御餠 惟光は拔き足差し足 とっぷり夜が更けてから持參する

 しかし乳母の少納言に知れると 姫も恥づかしいだらうと 實に甚く氣を囘して 少納言の娘の辨といふのを呼び出した 

 これを姫に こっそりと運んで差し上げて下され

 と わざわざ隱し入れるための香壷筥を一個 渡してやる 

 これは必ず御枕元に差し上げる祝ひの品でござる あな かしこ ふしだらにしてはなりませぬぞ

 と言ふ 辨は をかしなことを言ふものだと

 ふしだらだなんて 私はまだおぼこ娘なんですけど?

 と言ひながら取る 

 本當に今日は 冗談にも桃色文字はNGでござる まさかとは思ひますが 念のために

 と釘を刺す 若い娘はうすらとんかちで 子細までは察せず ただ安直に持て參り 御枕元の御几帳に差し入れて來た

 あとは君の方で何とか 姫には御説明されるのだらう

 女房なども氣附いてゐないが 翌朝 この筥を下げるときになって 親しくお傍に仕へる女房たちは さすがに ははぁ と膝を打つことがある

 御皿など いつのまにお誂へになったのか 花足(花柄を彫った臺脚)も實に上等 心にくいほどだし 御餅も 特別上等に誂へたものだ

 少納言は 君がここまで手厚く思ひをかけて下さるとは思はなかったから 有難くも忝けなく 痒いところに手の届くやうな御配慮に まづ感涙に咽んだ 

 しかし よく考へたら 私達にも一言御相談下さっても罰は當りますまい

 あの惟光といふヒヒ いったい何を考へてゐるんだか けっ まさか私達有能の総合職を 野暮でドジな役立たずだとでも踏んでゐるのかしら

 など ぶつくさ言ひ合ふのであった



posted by ゆふづつ at 00:00| 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする