かの御息所は いといとほしけれど まことのよるべと頼みきこえむには かならず心おかれぬべし 年ごろのやうにて見過ぐしたまはば さるべき折ふしに もの聞こえあはする人にてはあらむ
など さすがに ことのほかには思し放たず
この姫君を 今まで世人もその人とも知りきこえぬも 物げなきやうなり 父宮に知らせきこえてむ と 思ほしなりて 御裳着(おほむもぎ)のこと 人にあまねくはのたまはねど なべてならぬさまに思しまうくる御用意など いとありがたけれど
女君は こよなう疎みきこえたまひて 年ごろ よろづに頼みきこえて まつはしきこえけるこそ あさましき心なりけれ と 悔しうのみ思して
さやかにも見合はせたてまつりたまはず 聞こえ戯れたまふも 苦しうわりなきものに思しむすぼほれて ありしにもあらずなりたまへる御ありさまを
をかしうもいとほしうも思されて 年ごろ 思ひきこえし本意なく 馴れはまさらぬ御けしきの 心憂きこと と 怨みきこえたまふほどに 年も返りぬ
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あの六條御息所 君はたいへん御氣の毒には思ふが まことの伴侶として頼るには まづ足らぬことになる
それでも 今までのやうな間柄でもよいと仰るなら 然るべき折ふしに 話相手にはなる人ではあらう と 全く御放念遊ばすことは お出來にはならない
紫の姫君を 今までは日蔭の身に置いて來たが それでは餘りだと 父親の兵部卿宮にもお知らせしよう と思ひ立たれ
御裳着(女子成人式)など 大っぴらにはなさらぬものの それなりに然るべくは御支度をなさる
そのお心遣ひなど 有難きことなれど
當の紫の君は 君をすっかりと嫌はれてしまひ 今まで色々と頼りにし 纏はりついたのさへ淺はかであったと 悔しがられるのみ
まともにお顏を合はることもなく 君が御冗談など仰っても やらしく煩はしいとのみ思され 頑になって すっかりと變はられてしまった
君は をかしくも可哀さうにも思はれ
思った通りにはならないものだな かう振られてしまふとは まったくどうにもならない
と 零される間に 年が改まった

