2009年07月10日

第十卷 賢木(さかき) 一(齋宮の御下り近うなりゆくままに)

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   第十卷 賢木(さかき) 一(齋宮の御下り近うなりゆくままに)

 齋宮(さいぐう)の御下り 近うなりゆくままに

 御息所 もの心細く思ほす やむごとなく わづらはしきものにおぼえたまへりし大殿の君も亡せたまひて後 さりともと世人も聞こえあつかひ 宮のうちにも心ときめきせしを

 その後(のち)しも かき絶え あさましき御もてなしを見たまふに まことに憂しと思すことこそありけめと 知り果てたまひぬれば

 よろづのあはれを思し捨てて ひたみちに出で立ちたまふ 親添ひて下りたまふ例(れい)も ことになけれど いと見放ちがたき御ありさまなるにことつけて 憂き世を行き離れむ と思すに

 大將の君 さすがに 今はとかけ離れたまひなむも 口惜しく思されて 御消息ばかりは あはれなるさまにて たびたび通ふ

 對面したまはむことをば 今さらにあるまじきことと 女君も思す

 人は 心づきなしと思ひ置きたまふこともあらむに 我は 今すこし思ひ亂るることのまさるべきを

 あいなし と心強く思すなるべし

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 齋宮の御伊勢下りが近くなるにつれ 御息所はもの心細く思はれるやうになる

 重々しく煩はしいものに思はれた左大臣の姫君が亡くなられたあとは
 すはこそと 世人も取り沙汰し 野の宮に仕へる者たちも期待してゐたが

 當の源氏の君がプッツリ 御見限りとしか思はれないやうな御態度 君もすっかりと愛想盡かしをされたに違ひない

 と思ひ知ったので もう樣々の未練を振り捨て ひたすら御伊勢に向かって發たれる

 母親が添ふて伊勢に下る例がある譯でもないが 齊宮が幼く 一人任せには出來無いとの口實を設け 憂き世を離れようとなさる

 大將の君は 今はと遠く離れておしまひになるのが さすがにいとほしく思はれ お手紙だけは なにかと御氣持を込め たびたび通はされた

 ただ 今更 對面でもなからうと 女君も思し 君の心はもう離れていらっしゃるのだから なまじっか逢ひでもすれば こちらの氣持がまた少しは搖れ動くことにもなる

 無用の足掻きはすまいと 氣持を引き締められるのであらう

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「あいなし と心強く思すなるべし」

「あいなし」といふ言葉は、おそらく、「あひなし」の訛ったもので、「とくに譯もない」「關りがない」といふやうな意味合ひを持つのだらう。

 しかし、「合へなし」とも混同され、うまく調合出來ないといふ意味合ひから、どうにもならないといふ場合にも使ふ。ここではその意味で、今更逢って話したところでよりが戻る譯でもない、といふ諦めの氣持で「あいなし」と割り切るのであらう。いかにも女性的、消極的な割り切り方である。



posted by ゆふづつ at 00:00| 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする