2009年10月30日

第十三卷 明石 二(御文にあさましくを止みなきころのけしきに)

   第十三卷 明石 二(御文にあさましくを止みなきころのけしきに)

 御文(おほむふみに)に

 あさましく を止みなきころのけしきに いとど空(そら)さへ閉づる心地して 眺めやる方なくなむ

 浦風や いかに吹くらむ 思ひやる 袖うち濡らし 波間なきころ

 あはれに悲しきことども 書き集めたまへり いとど汀(みぎは)まさりぬべく かきくらす心地したまふ

 京(きゃう)にも この雨風 あやしき物のさとしなりとて 仁王會(にんわうゑ)など 行はるべしとなむ聞こえはべりし 内裏(うち)に參りたまふ上達部なども すべて道閉ぢて 政(まつりごと)も絶えてなむはべる

 など はかばかしうもあらず かたくなしう語りなせど 京の方のことと思せば いぶかしうて 御前(おまへ)に召し出でて 問はせたまふ

 ただ 例の雨の を止みなく降りて 風は時々吹き出でて 日ごろになりはべるを 例ならぬことに驚きはべるなり

 いとかく 地の底徹(とほ)るばかりの氷(ひ)降り 雷(いかづち)の靜まらぬことは はべらざりき

 など いみじきさまに驚き懼(お)ぢてをる顔の いとからきにも 心細さまさりける

**********

〔紫の上の〕御文に

 あさましく を止み(小止み)なきころのけしきに いとど空さへ閉づる心地して 眺めやる方なくなむ

 浦風や いかに吹くらむ 思ひやる 袖うち濡らし 波間なきころ

〔そでを濡らす浪の休む暇も無い〕

 あはれに悲しきことども書き集めたまへり

〔君も〕いとど 汀まさりぬべく〔土佐日記、「行く人も とまるも袖の 涙川 みぎはのみこそ 濡れまさりけれ」〕 かきくらす心地したまふ

〔使者〕

 京にも この雨風 あやしき物のさとし(お告げ)なりとて 仁王會(鎭護國家のための宮中行事の一種)など 行はるべし(筈である)となむ聞こえはべりし 内裏に參りたまふ上達部なども 〔冠水で〕すべて道閉ぢて 政(行政)も絶えてなむはべる

 など はかばかしうもあらず(たどたどしく) かたくなしう(ぶつくさと)語りなせど

 京の方のことと思せば いぶかしうて(詳細が知りたくて) 御前に召し出でて(出して) 問はせたまふ

〔使者〕

 ただ 例の雨の(恆例となった雨が)を止みなく降りて 風は時々吹き出でて 日ごろに(幾日にも)なりはべるを 例ならぬことに驚きはべるなり

 いとかく 地の底徹る(地面の穴が開く)ばかりの氷(雹、霰)降り 雷の靜まらぬことは はべらざりき

 など (使者が)いみじきさまに驚き 懼ぢてをる顔の いとからきにも(辛さうなのを見ても) 心細さ まさりける

**********

 紫の上からの御文には

 いやになるほど雨も降り續いて まるで空に蓋が出來たやうで 眺めやる方角もありません  

 浦風や いかに吹くらむ 思ひやる 袖うち濡らし 波間なきころ 

 など 悲しさうなことが色々と 君もどっと涙が溢れ 何も見えなくなった

 使者によると キでは この雨風は妙な物のお告げであるからと 仁王會なども行はれることになってゐるらしい 參内する上達部らも 道路が水浸しで通れず 行政も完全に麻痺してゐるとか

 など ぼそぼそ云ふやうだが あまり要領を得ない キのこととなれば 君も詳細が知りたく 御前に召し出し 直かに御聞きになった

「ただもう雨がざーざー えろ降りやしてな 止むことも知らんやうで 風も時々吹いてめぇりやすし いくんちも經つもんでごぜぇやすから はぁ こいは尋常のこんではないと びっくらこいたやうな鹽梅ぇにて はぁ ごぜぇやす

 こいな風に 地べたに穴の開くほど氷が降るは 雷が止まんちうのは ただごとではなからうと はぁ みな言ふてをりやす」

 など 使者も異樣な天候に驚き 顏が引きつってゐる 見てゐる方が 心配になって來た


posted by ゆふづつ at 00:00| 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする