2009年11月02日

第十三卷 明石 五(やうやう風なほり雨の脚しめり)

   第十三卷 明石 五(やうやう風なほり雨の脚しめり)

 やうやう風なほり 雨の脚しめり 星の光も見ゆるに この御座所(おましどころ)のいとめづらかなるも いとかたじけなくて 寢殿(しんでん)に返し移したてまつらむとするに

 燒け殘りたる方も疎(うと)ましげに そこらの人の踏みとどろかし惑へるに 御簾なども みな吹き散らしてけり 夜を明してこそは

 とたどりあへるに 君は御念誦(おほむねんず)したまひて 思しめぐらすに いと心あわたたし

 月さし出でて 潮(しほ)の近く滿ち來ける跡もあらはに 名殘なほ寄せ返る波荒きを 柴の戸押し開けて 眺めおはします

 近き世界に ものの心を知り 来し方行く先のことうちおぼえ とやかくやと はかばかしう悟る人もなし

 あやしき海人どもなどの 貴(たか)き人おはする所とて 集り參りて 聞きも知りたまはぬことどもを さへづりあへるも いとめづらかなれど え追ひも拂はず

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 やうやう風なほり 雨の脚しめり(衰へ) 星の光も見ゆるに この御座所のいとめづらか(珍妙)なるも いとかたじけなくて 〔君を〕寢殿に返し移したてまつらむとするに

〔供人〕

 燒け殘りたる方も疎ましげ(厭な感じ)に そこら(大勢)の人の踏みとどろかし惑へる〔間〕に 御簾なども みな〔暴風が〕吹き散らしてけり

 夜を明してこそは〔樣子を見よう〕

 と たどりあへる(思案にあぐねる)に 君は御念誦し(念佛を唱へ)たまひて 〔あれこれ〕思しめぐらすに いと心あわたたし

 月さし出でて 潮の 近く滿ち來ける跡もあらはに〔見え〕 〔嵐の〕名殘 なほ寄せ返る波荒きを 柴の戸押し開けて 眺めおはします

 近き世界(近い所)に ものの心を知り 来し方行く先のことうちおぼえ とやかくやと はかばかしう悟る人もなし

 あやしき海人どもなどの 貴き人おはする所とて 集まり參りて 〔君が今までに〕聞きも知りたまはぬことどもを さへづりあへるも いとめづらかなれど え追ひも拂はず

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 次第に風も凪ぎ 雨脚も衰へ 星の光も見えて來ると この御座所が實にをかしな場所だと氣附く餘裕が出來た まことに申譯も無いと 寢殿にお戻ししようとするが

 燒け跡といふのも氣味が惡いね

 大勢 どたばたする間に 御簾など みな吹っ飛んじまったやうだね

 もう一晩樣子を見てみようか

 など 思案投げ首

 その間にも 君は念佛を唱へつつ あれこれと思ひが廻り 實に心落ち着かない

 月が出 邊りが見えて來ると 潮が目近にまで滿ちてゐる まだ嵐っぽい荒波が打ち寄せるのを 君は 柴の戸を押し開き 眺めておはした

 やはり 手の届きさうな近くには 物がよく分り 色々なことを識ってゐて あれこれ 適確に判斷出來る専門家がゐない

 その代はり 譯の分らぬ海人どもが どえらい人がゐるさうだと 集まって來る 今までに聞いたこともないやうなことを ペチャクチャと喋ってゐるのも 實に奇妙なものだが 惡氣のある譯でも無し 強ひて追っ拂ひも出來ない


posted by ゆふづつ at 00:00| 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする