2009年11月06日

第十三卷 明石 九(去ぬる朔日の日の夢にさま異なるものの)

   第十三卷 明石 九(去ぬる朔日の日の夢にさま異なるものの)

 去(い)ぬる朔日(ついたちのひ)の夢に さま異なるものの告げ知らすることはべりしかば 信じがたきことと思うたまへしかど

 十三日(じふさむにち)に あらたなるしるし見せむ 舟装(よそ)ひまうけて かならず 雨風止まば この浦にを寄せよ

 と かねて示すことのはべりしかば 試みに舟の装ひをまうけて待ちはべりしに いかめしき雨 風 雷のおどろかしはべりつれば

 人の朝廷(みかど)にも 夢を信じて國を助くるたぐひ多うはべりけるを 用ゐさせたまはぬまでも このいましめの日を過ぐさず このよしを告げ申しはべらむとて 舟出だしはべりつるに

 あやしき風細う吹きて この浦に着きはべること まことに神のしるべ違(たが)はずなむ ここにも もししろしめすことやはべりつらむ

 とてなむ いと憚り多くはべれど このよし 申したまへ

 と言ふ 良清 忍びやかに傳へ申す

**********

〔入道〕

 去ぬる一日の夢に さま異なる(異樣な姿の)ものの告げ知らすることはべりしかば 信じがたきことと思うたまへしかど

 十三日に あらたなる(鮮〔あらた〕かなる)しるし(靈驗)見せむ 舟装ひまうけて かならず 雨風止まば この浦にを〔漕ぎ〕寄せよ

 と かねて(豫め)示すことのはべりしかば 試みに舟の装ひをまうけて待ちはべりしに いかめしき雨 風 雷のおどろかしはべりつれば

 人(外國)の朝廷にも 夢を信じて國を助くるたぐひ多うはべりけるを 〔たとひ〕用ゐさせ(言を取り上げ)たまはぬまでも このいましめ(お告げ)の日(須磨の浦に船を寄せよと告げられた十三日)を過ぐさず このよしを告げ申しはべらむとて 舟出だしはべりつるに

 あやしき風 〔導くやうに部分的に〕細う吹きて この浦に着きはべること まことに神のしるべ(導き) 違はずなむ(間違ひがなかった)

 ここにも もし しろしめす(ご存知の)ことや はべりつらむ(あったのでせうか)

 とてなむ いと憚り多くはべれど このよし 〔君に〕申したまへ

 と言ふ 良清 忍びやかに(こっそりと)傳へ申す

**********

 入道云ふ

 去る一日の夢に 異樣なる姿の者のお告げがございました 信じがたいこととは存じましたが

 十三日に 鮮(あらた)かな靈驗を見せよう 舟を支度して 雨風が止んだら きっと この浦に漕ぎ寄せよ

 との 豫言がございましたので 試みに舟の支度を致しまして 待ってをりましたところ 激しい雨 風 雷が襲って參ったのでございます それで

 他國の朝廷にも 夢のお告げを信じて 國を助ける類の話が多うございますので 假に御注進が無用のものとならうと この浦に船を寄せよと告げられた十三日を過ごさぬやう この旨をご報告申し上げようと 舟を出しましたところ

 あやしき風 船を導きますやうに吹きまして この浦に着きましてございます まことに神のしるべは 間違ひもございませなんだ

 或は こちらの方にも もしや お氣附きのことが ございましたか

 といふことで まことに恐縮ながら この由を君に申し上げて下され

 と言ふ 良清は ことがことだから 小聲で君に申し上げた


posted by ゆふづつ at 00:00| 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする