第十三卷 明石 九(去ぬる朔日の日の夢にさま異なるものの)
去(い)ぬる朔日(ついたちのひ)の夢に さま異なるものの告げ知らすることはべりしかば 信じがたきことと思うたまへしかど
十三日(じふさむにち)に あらたなるしるし見せむ 舟装(よそ)ひまうけて かならず 雨風止まば この浦にを寄せよ
と かねて示すことのはべりしかば 試みに舟の装ひをまうけて待ちはべりしに いかめしき雨 風 雷のおどろかしはべりつれば
人の朝廷(みかど)にも 夢を信じて國を助くるたぐひ多うはべりけるを 用ゐさせたまはぬまでも このいましめの日を過ぐさず このよしを告げ申しはべらむとて 舟出だしはべりつるに
あやしき風細う吹きて この浦に着きはべること まことに神のしるべ違(たが)はずなむ ここにも もししろしめすことやはべりつらむ
とてなむ いと憚り多くはべれど このよし 申したまへ
と言ふ 良清 忍びやかに傳へ申す
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〔入道〕
去ぬる一日の夢に さま異なる(異樣な姿の)ものの告げ知らすることはべりしかば 信じがたきことと思うたまへしかど
十三日に あらたなる(鮮〔あらた〕かなる)しるし(靈驗)見せむ 舟装ひまうけて かならず 雨風止まば この浦にを〔漕ぎ〕寄せよ
と かねて(豫め)示すことのはべりしかば 試みに舟の装ひをまうけて待ちはべりしに いかめしき雨 風 雷のおどろかしはべりつれば
人(外國)の朝廷にも 夢を信じて國を助くるたぐひ多うはべりけるを 〔たとひ〕用ゐさせ(言を取り上げ)たまはぬまでも このいましめ(お告げ)の日(須磨の浦に船を寄せよと告げられた十三日)を過ぐさず このよしを告げ申しはべらむとて 舟出だしはべりつるに
あやしき風 〔導くやうに部分的に〕細う吹きて この浦に着きはべること まことに神のしるべ(導き) 違はずなむ(間違ひがなかった)
ここにも もし しろしめす(ご存知の)ことや はべりつらむ(あったのでせうか)
とてなむ いと憚り多くはべれど このよし 〔君に〕申したまへ
と言ふ 良清 忍びやかに(こっそりと)傳へ申す
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入道云ふ
去る一日の夢に 異樣なる姿の者のお告げがございました 信じがたいこととは存じましたが
十三日に 鮮(あらた)かな靈驗を見せよう 舟を支度して 雨風が止んだら きっと この浦に漕ぎ寄せよ
との 豫言がございましたので 試みに舟の支度を致しまして 待ってをりましたところ 激しい雨 風 雷が襲って參ったのでございます それで
他國の朝廷にも 夢のお告げを信じて 國を助ける類の話が多うございますので 假に御注進が無用のものとならうと この浦に船を寄せよと告げられた十三日を過ごさぬやう この旨をご報告申し上げようと 舟を出しましたところ
あやしき風 船を導きますやうに吹きまして この浦に着きましてございます まことに神のしるべは 間違ひもございませなんだ
或は こちらの方にも もしや お氣附きのことが ございましたか
といふことで まことに恐縮ながら この由を君に申し上げて下され
と言ふ 良清は ことがことだから 小聲で君に申し上げた

