2009年11月08日

第十三卷 明石 十一(限りなくよろこびかしこまり申す )

   第十三卷 明石 十一(限りなくよろこびかしこまり申す )

 限りなくよろこび かしこまり申す

 ともあれ かくもあれ 夜の明け果てぬ先に 御舟(みふね)にたてまつれ

 とて 例の親しき限り 四五人(しごにん)ばかりしてたてまつりぬ

 例の風出で來て 飛ぶやうに明石に着きたまひぬ ただはひ渡るほどに片時の間といへど なほあやしきまで見ゆる風の心なり

 濱のさま げにいと心ことなり 人しげう見ゆるのみなむ 御願ひに背きける

 入道の領(らう)じ 占めたる所々 海のつらにも山隱れにも 時々につけて 興をさかすべき渚の苫屋

 行なひをして 後(のち)の世のことを思ひ澄ましつべき山水(やまみづ)のつらに いかめしき堂(だう)を建てて三昧(さんまい)を行なひ

 この世のまうけに 秋の田の實(み)を刈り収め 殘りの齡積むべき稻の倉町(くらまち)どもなど

 折々 所につけたる見どころありてし集めたり

 高潮に怖(お)ぢて このころ 娘などは岡邊(おかべ)の宿に移して住ませければ この濱の館(たち)に心やすくおはします

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〔入道は〕限りなくよろこび かしこまり(御禮)申す

〔供人〕ともあれ かくもあれ 〔世間に目立たぬやう〕夜の明け果てぬ先に  御舟にたてまつれ(乘られよ)

 とて 例の親しき限り 四五人ばかりして 〔船に〕たてまつりぬ(乘られた)

〔また〕例の風 出で來て 飛ぶやうに明石に着きたまひぬ ただはひ渡るほど(距離)に 片時の間といへど なほあやしきまで見ゆる風の心なり

 濱のさま げに いと心こと(格別)なり 人〔の往來が〕しげう見ゆるのみなむ 御願ひに背きける

 入道の領じ 占めたる所々 海のつら(面したところ)にも山隱れにも 時々(四季折々)につけて 興をさかす(盛りにする)べき渚の苫屋

 行なひ(勤行)をして後世のことを思ひ澄ましつべき山水のつら(畔)に いかめしき堂を建てて 〔念佛〕三昧を行なひ

 この世のまうけ(生活)に 秋の田の實を刈り収め

 殘りの齡積むべき稻の倉町どもなど

 折々 所につけたる 見どころありてし 集めたり

 高潮に怖ぢて このころ 娘などは岡邊の宿に〔避難のため〕移して住ませければ 〔源氏の君は〕この濱の館に 心やすくおはします

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 入道 いたく歡び 御禮を申し上げた

 供人は ともかくもまぁ 餘り目立たぬやう 夜の明け切る前に 御舟にお乘り下され といふ

 いつもの親しい者四五人だけつれ 御船の乘られた

 すると また例の風が吹き始め 飛ぶやうに明石に着いてしまふた ほんのひと泳ぎの距離 片時の間ではあったが なほ不思議なことをする風であった

 濱の景色 また實に格別だ ただ人の行き來が多いのだけ お望み通りには行かない

 入道が所領する土地土地は 海づらにも山奧にもあり 四季折々の風情に合はせ

 渚の苫屋があったり

 或は 勤行に勵み 後世を思ひ澄ませさうな山水の畔に いかめしい堂を建て 念佛三昧の行をしたり

 身過ぎのためには 秋の田の實を刈り収め 殘りの齡を積むべき稻の倉を竝べ立てるなど

 時節や土地柄もよく按排してある

 高潮を避け 當座 娘などは岡邊の屋敷に避難させてゐたので 源氏の君は この濱の館に 心やすくお着きになった


posted by ゆふづつ at 00:00| 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする